原正人 (2009/12/31)
2009年11月末にティエリ・グルンステン(Thierry Groensteen)の主著 Système de la bande dessinée (Presses Universitaires de France, 1999) の邦訳、『マンガのシステム』が野田謙介訳で青土社から発売された。だいぶ前に『マンガ研究』で笠間直穂子氏が紹介しておられるが ((笠間直穂子「漫画のメカニズムを叙述する―ティエリー・グロエンステーン『漫画のシステム』書評」『マンガ研究』vol. 2、2002年10月)) 、2008年6月からは邦訳が予告され、本書の邦訳をまだかまだかと心待ちにしていた者をやきもきさせてきた書籍がこうしてようやく日の目を見ることとなった。グルンステンの本は既に昨2008年に『線が顔になるとき―バンドデシネとグラフィックアート』(人文書院刊、原題は Lignes de vie : le visage dessiné, Mosquito, 2003)が翻訳出版されており(当ブログでも紹介した)、本書はそれに続く二冊目の邦訳ということになる。
本書をマンガについての気軽なエッセイと思って読み始める読者もいないだろうが、『マンガの読み方』(別冊宝島EX、宝島社、1995年)やスコット・マクラウド(Scott McCloud)の『マンガ学』(岡田斗司夫監訳、美術出版社、1998年。原題は Understanding Comics : the Invisible Art, Tundra, 1993)のようなものを想像して読み始めた読者は、その構成と語り口の違いに愕然としたに違いない。この二作と比べると、『マンガのシステム』は圧倒的に学術的だし、図版も少ない。目次にざっと目を通しただけでも、「図像的連帯性」、「空間=場所のシステム」、「パラメータ」、「部分的関節論理」、「全体的関節論理」といった見慣れない言葉が並び、何やら難しげである。本論に目を通せば、クリスチャン・メッツやエミール・バンヴェニスト、ポール・リクールにジル・ドゥルーズ、ロラン・バルト等々が引かれ、難解という印象に拍車がかかる…… ((経済思想史研究の田中秀臣氏が「マンガモデル論のレジュメ」という記事で、『マンガのシステム』をまとめつつ、多段階の最適化問題として読む試みを公開している。『マンガのシステム』に関心がある方はそちらも併せてお読みいただきたい。))
だが、断言してしまおう。この本は、実のところ、まったく難解ではない。翻訳に特有の言い回しや、日本人のそれとは異なる文章の組み立てに引っかかるのは仕方がないにしても、ここで語られていることは極めて明快だ。「訳者あとがき」の実に手際のよいまとめを多少ふくらませて、次のように要約してしまうことすら可能だろう 。
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cu39 (2009/12/21)
『マンガのシステム』(青土社)、『線が顔になるとき』(人文書院)の著者ティエリ・グルンステン(Thierry Groensteen)が来日し主要参加者となった国際学術会議が京都国際マンガミュージアムで昨日閉幕したばかりですが、イベントはこれだけではありません。次は東京です。
明後日の12月23日(水・祝)、グルンステンを中心とする特別シンポジウム「ヴィジュアル・カルチャーと漫画の文法」が明治大学駿河台キャンパスで開催されます。
公式:明治大学:【国際日本学部】特別シンポジウム「ヴィジュアル・カルチャーと漫画の文法」(12/23)
グルンステンのほかにも荒俣宏、高山宏、竹熊健太郎、伊藤剛と、なかなか揃わない顔ぶれが集結するイベントです。
【明治大学国際日本学部特別シンポジウム】
ヴィジュアル・カルチャーと漫画の文法――ティエリ・グルンステンを迎えて――
- 日時
- 2009年12月23日13:30-18:00(13:00開場)
- 場所
- 明治大学駿河台校舎リバティホール(リバティタワー1F)
- プログラム
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- 第一部 13:40-15:15
- 『線が顔になるとき』をめぐって――視覚文化論の立場から
荒俣宏×高山宏
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- 第二部 15:30-17:30
- 『マンガのシステム』をめぐって ~国境を越えたマンガ論の試み
グルンステン×竹熊健太郎×伊藤剛(司会:藤本由香里)
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カテゴリー: ニュース
cu39 (2009/11/2)
12月18日(金)から20日(日)にかけて、京都国際マンガミュージアムにて「マンガ/コミックス研究」をテーマとする国際シンポジウム「世界のコミックスとコミックスの世界」が開催されます。主催は京都精華大学国際マンガ研究センター。
公式サイト:国際学術会議「世界のコミックスとコミックスの世界」 (京都国際マンガミュージアム)
BD に関するところでは、なんと言っても『線が顔になるとき バンドデシネとグラフィックアート』(Lignes de vie : Le visage dessiné)のティエリ・グルンステン(Thierry Groensteen)が来日することでしょう。グルンステンは初日夕方に「会議全体の議論の基調講演」を行うそうで、東北大准教授でBD・コミックスをフィールドとされている森田直子が「コメンテーター」として同席する模様。
他のセッションやワークショップにも錚々たる顔ぶれが並んでいて、紹介しきれないほど。詳しくは公式サイトでご確認を。
2008年にパリ政治学院で行われた「マンガ、60年を経て……」で伊藤剛・東浩紀とディスカッションを行ったパスカル・ルフェーブル(Pascal Lefèvre)、ドイツの「マンガ」作家クリスティーナ・プラカ(Christina Plaka)らも参加。日本からは、夏目房之介、先日寄稿していただいた小田切博、『ピエールとジャンヌの パパ!お話しして!』の猪俣紀子、グルンステンの『マンガのシステム』(Système de la bande dessinée)を翻訳中の野田謙介らが顔を揃え、京都精華大学からジャクリーヌ・ベルント(Jaqueline Berndt)、吉村和真らもホスト役として参加しています。
また12月17日(木)には、関連イベントとして竹宮惠子が参加する対談「日本女性マンガ・アメリカ女性コミックスの転換期としての70年代」も予定されているとのこと。ちょっと考えられない豪華さですね……。
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タグ: イベント, シンポジウム, 京都, 研究
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原正人 (2009/10/26)
来月11月に明治大学で「明治大学・鳥取県連携講座~マンガ王国・鳥取から世界へ:水木しげる・谷口ジロー・青山剛昌とマンガの国際性をめぐって」という3週連続講座が行なわれるそうですが、その第2回、11月14日(土)に「谷口ジロー、メビウスとBDを語る」と題して、マンガ家谷口ジローさんによるトークが行なわれます!
今年5月に来日した世界的に有名な作家メビウスに最も早くから影響を受け、現在、ヨーロッパで非常に高い評価を受ける谷口ジロー氏本人においでいただき、メビウスとBD(フランスのマンガ)についてご自身の体験とそれぞれとの関係について語っていただきます。
(聞き手:藤本由香里)
とのこと。『ユリイカ』2009年7月「メビウスと日本マンガ」特集号でも寺田克也さんと熱いメビウス・トークを繰り広げた谷口ジローさんご本人のお話を直接聞くことができる、またとないチャンスです。ご関心がある方はぜひ。
申込み方法:
事前予約制(全席自由、各講先着150名)
受講料:1回につき ¥1,000(税込)
申し込みは電話・ファックス・メールでリバティアカデミー事務局まで
TEL:03-3296-4423
FAX:03-3296-4542
Mail:academy [at] mics.meiji.ac.jp
明治大学リバティ・アカデミーの講座ですが、会員でなくても申込み可能。連続講座ですが第2回だけの参加もOKです。申込み窓口で確認したところ、もし席が残っていれば当日直接開場で受け付けてもらうことも可能だそうですが、各回150席と限られた枠なので、前日であっても予約を入れた方が確実ではあります。
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カテゴリー: ニュース
cu39 (2009/10/14)
Vol.2 が出たときには「だいぶ先だな」と思っていましたが、『ユーロマンガ』 Vol.3 がついに発売となります。
『ブラックサッド』の第3巻分が Vol.2 で完結したので、Vol.3 では(『ブラックサッド』のスピンオフと同時に)新しい作品が掲載されます。
まず表紙になっている、ジャン=ピエール・ジブラ(Jean-Pierre Gibrat)の『赤いベレー帽の女』(Vol du Corbeau、直訳すると『カラスの飛翔』)。BD らしい流麗な絵柄を楽しめる作品です。もうひとつ、シリル・ペドロサ(Cyril Pedrosa)の『抵抗』。原題の Résister Sans Papiers は(本当に)直訳すると「紙なき抵抗」ですが、"sans papiers" というのは「滞在許可証(papier)を持たない(人)」という意味で、不法滞在移民をテーマとした作品です。繊細な色使いのグラフィックを楽しみつつ、シリアスで現代的な問題の一端に触れてみて下さい。
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タグ: euromanga, スカイ・ドール, メビウス, ユーロマンガ, ラパス, 天空のビバンドム, 寺田克也, 森本晃司, 赤いベレー帽の女, 雑誌
カテゴリー: ニュース
小田切博 (2009/9/30)
今回、アメリカン・コミックスに特に造詣の深い小田切博さんに寄稿していただきました。『戦争はいかに「マンガ」を変えるか アメリカンコミックスの変貌』や『アメリカンコミックス最前線』(共編著)などの仕事からもわかるように、小田切さんはアメリカ文脈をフィールドとする方であり、主に現代 BD を扱う当サイトとは分野が異なります。ですが、総称としての「マンガ」の歴史を俯瞰すると、「アメリカとフランス」などという境界線は(あるいは現在「マンガ」に分類されているものといないものの境界線すらも)曖昧になってきます。今回はそうした観点からお読みください。
コミックストリップの例
Winsor McCay, Dream of the Rarebit Fiend
去る2009年6月20日、21日の2日間、東京工芸大学において日本マンガ学会第9回大会がおこなわれた。
初日である20日におこなわれた発表の中に東北大学大学院の三浦知志氏による「『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』における初期コミックストリップ」というものがあった。これは『ニューヨーク・イブニング・テレグラム』という新聞の20世紀初頭の数年分の複写を取り寄せ、そこに掲載されているコミックストリップをリニアに追っていく、というきわめて地味だが非常に実証的なものである(このレポートについては会場で質疑に参加した夏目房之介のブログでも記述がある)。
発表の中味も興味深かったのだが、個人的な興味から事後三浦氏に紹介してもらい当時の新聞紙上でそれらの作品が「Comic Strip」と呼ばれていたかどうかを確認させてもらった。
――といっても一般的には「なぜそれが疑問になるのか」自体がピンとこないだろう。多少遠回りになるが、この点について若干の説明をしておく。
周知のように日本語における「マンガ」は英語では「Comics」のことだとされている。また仏語ではこれを「bande dessinée」という。しかし、この三つの名詞はじつは意味的にはその指示する対象がそれぞれ異なっている。
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カテゴリー: 特別寄稿
cu39 (2009/6/29)
今週、早稲田大学富山キャンパスでバンドデシネに関するシンポジウムが行われます。
講演会のお知らせ (早稲田大学文学学術院フランス語フランス文学コース)
シンポジウム 「BDとは何か?」
6月30日(火)17時より
早稲田大学戸山キャンパス 33-2号館2階 第1会議室 (プレハブ校舎)
→ Google Maps
- 「フランス人にとっての「ドラえもん」? ――愛され続けるキャラクターたち――」
中島万紀子 (早稲田大学非常勤講師)
- 「文学 / BD / 美術」
古永真一 (早稲田大学非常勤講師)
- 「1990年以降のフランスのマンガ――フランスにおける発展と日本での受容――」
原正人 (バンド・デシネ研究)
BDとは、フランス語圏のマンガ、 バンド・デシネ (bande dessinee) の略称。 本シンポジウムは、おもに学部生を対象に フランス語圏のマンガの世界を紹介する。
ということです。大学の学部生を対象にしたものとなっているので、基本的な情報の紹介になるんでしょうね。平日の夕方ではありますが、都合の合う方はぜひ参加してみてください。
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cu39 (2009/6/26)
『ユーロマンガ』第3号、『B砂漠の40日間』日本版、『ユリイカ』メビウス特集とタイミングを逃しまくってスルーし続けてしまいましたが、今回は発売のリマインドくらいしておこうと思います。
『ユリイカ 特集*メビウスと日本マンガ』 – 青土社
[ Amazon.co.jp へ ]
「メビウスと日本マンガ」として特集を組んだ『ユリイカ』2009年7月号がついに明日発売されます。5月9日に明治大で行われた浦沢直樹・夏目房之介との鼎談、5月7日に京都精華大で行われたりんたろう・大友克洋との鼎談、5月6日に京都マンガミュージアムで行われた村田蓮爾トークイベントで描かれたドローイング・セッションの成果が収録されているだけでも資料的価値はかなり高いです。
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cu39 (2009/5/20)
5月29日(金) 19:00 からセルバンテス文化センター東京にて、スペインのマンガ家マックス(Max)ことフランセスク・カプデビラ(Francesc Capdevila)の講演が行われます。本人の講演の後に小野耕世と対談、という構成みたいです。
マックスの詳しい紹介はユーロマンガ公式サイトの記事でどうぞ。2007年に『スーパーリアリスト・バルディン』(Bardín el Superrealista, リンクは Amazon.jp の英語版)で第1回国際コミック賞(Premio Nacional del Cómic、スペイン文化省主催)を受賞したのを筆頭に数々の受賞歴があり、「スペインのコミック界では大御所」という表現は大げさなものではなさそう。
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cu39 (2009/4/28)
5月9日(土)に明治大学アカデミーホールで行われるシンポジウム「メビウス ∞ 描線がつなぐヨーロッパと日本」について新しい情報が入ってきました。
メビウス(Moebius)、浦沢直樹、夏目房之介の鼎談では、各自が手元で絵を描きながらトークする形式になるとか。ペンと紙なのか、タブレットのようなデジタル機器を使うのかはわかりませんが、顔ぶれから普通に考えるとアナログな方法を想像します。そのほうが「描線」というタイトルにもマッチしそうだし。
会場に複数のマンガ家が聴きに来る予定もあり、その先生方のメビウス体験を語ってもらったりするかもしれないとか。具体的な名前はわかりませんでした。メビウスは日本のマンガ家に意外なほど広く影響を与えているので、どこから誰が出てくるかわからないですね。
オフラインルートで入ってきた情報なのでソースは出せないんですが、ご了承ください……。
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