追悼メビウス=ジャン・ジロー
編集部 (2012/03/11)
昨日3月10日朝(フランス時間)、バンドデシネ界の巨匠でありメビウスの筆名でも知られる作家ジャン・ジロー氏が、癌との長い闘病生活の末、パリにて逝去されました。
ジャン・ジロー名義では写実的な西部劇『ブルーベリー』を描く一方で、メビウス名義では『アルザック』など幻想的なSF作品を生み出し、世界的なビジュアルSFブームを巻き起こしながら、バンドデシネの世界のみならずアメリカン・コミックスや日本のマンガにも多大な影響を与えました。彼がいなければ私たちのビジュアル文化はもっと貧しいものになっていたでしょう。
2009年の来日時、京都と東京で精力的にイベントをこなされる氏の姿は、まだ日本のファンの記憶に新しいところです。2010年末から2011年初頭にかけてはパリのカルティエ現代美術財団において展覧会 MOEBIUS-TRANS-FORME が開催され、日本では2010年に『アンカル』が、2011年に『エデナの世界』が初めて全訳出版されるなど、両国において再評価の機運が高まりを見せていた矢先の訃報でした。一ファンとして、とても残念でなりません。
しかし、メビウスとしての彼はいつでも「宙に浮く」「空を飛ぶ」ことを描きつづけました。その、ひたすら憧れた空へ、ついに旅立つ日がやって来たのでしょう。私たちが祈るまでもなく、その旅は幸福なものであるはずです。
Adieu Jean, bon voyage.
Twitter上の追悼コメント:
https://twitter.com/nightow/status/178503347869986819メビウスさんは私にとって神的存在です。いつも、こんなにいつも意識した人はいませんでした。これからも変わらず私の中で生き続けるでしょう 心からご冥福を祈ります
— 森本晃司 (@kojimorimoto) March 10, 2012
あなたの引いた一本の地平線の遠いこと……もし自分がそこ迄行く事が出来たなら、そこで待っていてくれるのでしょうか? もっとお話をしたかったです。REST IN PEACE MOEBIUS(大友)
— 大友克洋GENGA展 (@OTOMO_GENGATEN) March 10, 2012
主な著作(日本語版のみ):
著者 | アレハンドロ・ホドロフスキー(作)、メビウス(画) |
出版社 | 小学館集英社プロダクション |
あらすじ | R級ライセンスを持つさえない私立探偵ジョン・ディフールは、ひょんなことから宇宙の命運をつかさどると言われる謎の生命体“アンカル”を手に入れる。アンカルをめぐり、政府、ゲリラ組織、宇宙征服をたくらむ異星人など、さまざまな思惑が交錯し、ジョンは図らずも光と闇をめぐる壮大な宇宙抗争に巻き込まれていく。 |
ポイント | メビウスとホドロフスキーの代表作にしてSFBDの金字塔的作品、以前一部だけ邦訳されていたが満を持しての完訳。 |
著者 | メビウス |
出版社 | ティー・オーエンタテインメント |
あらすじ | 主人公のステルとアタンのコンビが、宇宙船に乗って、エデンの園を想起させる緑豊かな楽園めいた惑星に辿り着く。しかし二人は、ひょんなことから離ればなれになってしまい、見知らぬ土地で互いを探し合う。果たして、二人は再び巡り会うことができるのか? |
ポイント | 元々フランスの自動車会社「シトロエン」のために1983年に出版された作品で、その後シリーズものに発展した。作画も物語もメビウスがこなしており、純度100%のメビウスワールドを堪能できる。 |
著者 | メビウス |
出版社 | 飛鳥新社 |
ポイント | 60歳を過ぎたメビウスが、ラフスケッチや下描きをせずに一発描きで、しかも修正ひとつ入れずに仕上げた絵物語、奔放な想像力と超絶技巧は鳥肌もの。 |
著者 | メビウス他 |
出版社 | 青土社 |
ポイント | 最後の来日となった2009年の来日講演の様子などを収録、詳細な年表や作品解説もありメビウスを知るのにもってこいの一冊。 |
著者 | メビウス(原作)、谷口ジロー(作画) |
出版社 | 美術出版社 |
あらすじ | 一人の女性が飛行能力を持つ赤ん坊を生む。彼は政府秘密機関の保護のもとに管理され、その出生の事実は秘密にされる。 |
ポイント | ジャン・ジロー名義のブルーベリーに大きな影響を受けたという谷口ジロー氏との競作、残念ながら未完のままである。 |
著者 | スタン・リー(作)、メビウス(画) |
出版社 | 小学館プロダクション |
ポイント | vol.1、2に分割してスタン・リー作、メビウス画で話題となったシルバーサーファーを掲載。 |
映像作品:
氏は映画製作と関わりが深く、その非凡な才能でコンセプトデザインや美術デザインなどにおいても多くの忘れがたい作品を残しました。
作品とデザイン画を幾つか紹介したいと思います。
ブレードランナー(1982、米)
この作品はダン・オバノンとの短編『ロング・トゥモロー』にインスピレーションを受けたとされています。またノンクレジットながら衣装デザイナーとしても参加しているそうです。
アルザック・ラプソディ(2002、仏)
自身の代表作アルザックを自ら監督した、短編アニメーション。
ウェブ上で読める作品:
グーグルなどで画像検索を行うと氏の作品を色々と見ることが出来ます
無断でアップロードされたものも多々ありますが、日本語化され無償公開されている2作品を紹介します。どちらも本としては一般に出回っていない珍しい作品です。
カルティエの時計の宣伝のために描かれた作品。
赤十字の成り立ちを解説した作品。
動画:
残念ながら氏の筆致を生で見ることは2度と出来なくなってしまいましたが、幸いな事にネット上には貴重なインタビュー映像や作画映像が多数公開されています。
ここで紹介する以外にも、沢山あるので是非色々と探してみてください。
1972年のテレビ番組、まだ「メビウス」としては活躍していない頃です。アメコミのスーパーアーティスト、ジョー・キューバートとニール・アダムスと言う夢のようなメンツが競演する貴重な動画。
同じテレビ番組、こちらはヒューゴ・プラット(コルト・マルテーズの作者)、ジジェ(メビウスの師匠)、ジャン=クロード・フォレスト(バーバレラの作者)とBDの伝説的なアーティストが勢ぞろいしている。
ジャン・ジロー名義の『ブルーベリー』の作画メイキング、短い動画ながら伝統的な作画技法の確かさが垣間見える。
雑誌テレラマのためにイラストを描いた時のメイキング映像。
2009年の来日時に明治大学で行われた浦沢氏とのライブドローイングの動画。