『ピエールとジャンヌのパパ! お話しして!』
原正人 (2009/02/01)
昨2008年12月20日にBDの翻訳書が一冊発売されました。
Lewis Trondheim(ルイス・トロンダイム)作、José Parrondo(ジョゼ・パロンド)画
Allez raconte plein d’histoire (『ピエールとジャンヌのパパ! お話しして!』)
猪俣紀子訳、くらしき絵本館刊
『ユーロマンガ』第一号で近刊として紹介してあったのですが、予定より少し遅れての刊行となったようです。
ページ下にメニューがあって、「Book」というところをクリックすると詳細がわかります。値段は1,680円。まだアマゾンなどでは買えないそうで、「Shopping」というところをクリックすると、注文用の別ウィンドウが開きます。
くらしき絵本館の解説によると、内容は以下のとおりです。
お父さんが毎晩寝る前に、子どもにお話をするという設定で7話収録されています。兄妹のピエールとジャンヌはそれぞれモンスターとお姫様のお話をせがみますが、早くテレビでサッカー観戦をしたいお父さんは、いつも思いつきでいい加減なお話を作ります。途中でつじつまが合わなくなっては子どもたちから厳しい追求を受けるお父さん。それでもお父さんのお話は毎晩続くのです。
日本ではお目にかからない珍しいコマ割りとシンプルな線で描かれた、不思議なかわいいキャラクターたちが登場します。子どもたちに愛でてもらえることはもちろん、この本のかわいいファンタジックな部分とクールな現実感をもった部分の偏り過ぎない絶妙な加減は、かわいさを愛する大人の方にもお勧めです。
またフランス語と日本語の併記なので、フランス語に興味のある方にもお勧めです。
なお帯に載せている推薦文は、あの、小西康陽さんに書いていただきました!
BDというよりは、絵本のような装丁で、絵柄も内容も、まずは子ども向けの作品だと言っていいでしょう。子どもたちが父親にねだるお話が、いつもモンスターとお姫さまのお話だったりしてかわいいです。形式的には、どのページも基本的には横5コマ×3段で構成されていて、シンプルな描線とカラーが使われているということもあり、非常にミニマルな印象を受けます。
ただ、この作品、かわいいだけかと言えばそんなことはなく、随所に子ども特有の実にあっけらかんとしたノンセンスな観察があってびっくりさせられるし、定型的なコマ割を逆手にとった遊びなんかも盛り込まれていて、大人が読んでも十分楽しめます。原作を担当しているルイス・トロンダイムは、現在フランスで最も有名なBD作家の一人ですが、実験的なBDを次々と世に送り出している出版社 L’Association (ラソシアシオン)の創立メンバーであり(今はラソシアシオンから離れています)、一方で、Sergio Garciá(セルジオ・ガルシア)という作家と一緒に Bande dessinée, apprendre et comprendre (『バンド・デシネ―学習と理解』)という、スコット・マクラウドの『マンガ学』(美術出版社刊)を易しくしたような、BDによるBD入門みたいな本も出していたりして、この辺は、彼の面目躍如といったところなのかもしれません。そもそも翻訳もあるトロンダイムの『Mister O(ミスター・オー)』(講談社)を思わせるようなところもありますね。もっとも、作画のジョゼ・パロンドも、BDやイラスト以外に音楽活動もする才人のようなので、結局は、二人の出会いがこの独特なBDを可能にしたのでしょう。
このシリーズの第一巻は2001年、第二巻は2003年にそれぞれ出版されていて、今回訳されたのは第二巻に当たります。フランスでは、2006年10月からテレビ・アニメも放映されています。放送局は M6Kid というところで、各6分間のアニメが既に54話放送されているとのこと。You Tubeに動画がいくつかアップされてますが、残念ながら音なしです……。
ちなみに M6Kid のホームページで短いトレーラーのようなものを見ることもできます。ページの上の方に「ALLEZ RACONTE」という小さな画像があるので、そこをクリックしてください。ページが切り替わったら、画面中段の「VIDÉO」というところをクリックします。そうすると、動画がストリーミング再生されます。
ここしばらく翻訳されてきたダヴィッド・ベーの『大発作』(明石書店)やマルジャン・サトラピの『ペルセポリス』(バジリコ)のような自伝的な要素の強いBDとも『ユーロマンガ』(飛鳥新社)のようなグラフィックを前面に出したBDとも異なるタイプのBDですが、非常に面白い作品なので、ぜひ多くの人に読んでいただきたいと思います。セリフが日仏併記なので、フランス語の勉強にもいいかもしれませんね。