アングレーム国際バンドデシネ・フェスティバル 2009
原正人 (2009/01/08)
毎年1月末にフランスのアングレーム市で行なわれるマンガのイベントをご存知でしょうか? 開催地名を取って俗に「アングレーム」と呼ばれるこのイベントは、正式名称を Festival international de la bande dessinée d’Angoulême (アングレーム国際バンドデシネ・フェスティバル ((さまざまな訳し方が可能です。ウィキペディア日本語版には「アングレーム国際漫画祭」の項があり、簡単な説明を読むことができます。「アングレーム国際コッミック・フェスティバル」という表記もされることがあるようです。)) )といい、1974年に行なわれた第1回から数えて今年で36回目を迎えます。日程は、1月29日から2月1日まで。
Festival International de la bande dessinée d’Angoulême (公式サイト フランス語と英語のみ)
例年1月末ごろの4日間をかけて、見本市、サイン会、展覧会、パフォーマンス、映画の上映、コンサート、講演、討論会などなど、さまざまなイベントが行なわれ、20万人以上の人手が見込まれる世界有数のマンガ・イベントです。
日本での知名度はまだまだですが、2007年度に水木しげる『のんのんばあとオレ』がフェスティバルの最優秀作品賞を受賞したり、それ以前にも毎年何人か日本のマンガ家が招待されていることもあり、徐々に広く知られつつあるようです。今年も作品がオフィシャル・セレクションにノミネートされている平田弘史や、集英社から刊行されたばかりのマンガ誌『JC.COM』でも表紙を飾っていた村田蓮爾などが招待されています。
検索してみると、以下の記事のような日本語の体験記もたくさん出てきます。この記事のほかにも、マンガ家さんが実際にアングレームに行ってブログでレポートするケースもあるようです。
- 2004年 第31回大会のレポート (ユーロジャパンコミック)
- 2005年 第32回大会のレポート (ユーロジャパンコミック)
アングレーム国際BDフェスティバルでは、毎年、前年12月からその年の11月までに出版された作品の中から優秀なものを選び、その中から特に優れたものに賞が与えられます。選考に当たって、便宜的に以下の三つの分類が採用されています。
1. Sélection Officielle (オフィシャル・セレクション)
一般部門というような感じでしょうか。全部で56作品がノミネートされており、その中の特に優れていると見なされた7作品が賞を授かります。
- Le Meilleur Album (最優秀作品賞)
- 受賞者は Fauve d’Or (フォーヴ・ドール=「金の猛獣」)を手にします。カンヌ映画祭の Palme d’Or (パルム・ドール=「金の棕櫚」)みたいなもんですね。猛獣とは言ってますが、ルイス・トロンダイムが考案したアングレームのマスコットの猫ちゃんを指しているようです。
- 5 Essentiels (5つの優秀作品賞)
- 文字通り最優秀作品に次ぐ作品が5つ選ばれます。
- L’Essentiel “Révélation” (優秀新人賞)
- オフィシャル・セレクションに選ばれた新人の中の優れた作品ですね。
- L’Essentiel Fnac-SNCF (フナック‐SNCF優秀作品賞)
- プラスアルファとして設けられている賞です。これはいわば読者賞で、読者が自分のお気に入りの作品に投票することができ、最も多く得票した作品に授けられます。フナックというのはフランスの大手チェーン書店、 SNCF (Société Nationale des Chemins de fer Français) はフランス国鉄で、どちらもアングレームのスポンサーです。
2. Sélection Patrimoine (BD遺産セレクション)
古典的な作品の復刊を評価するセレクションです。今回は8作品がノミネートされていて、最も優れた作品に L’Essentiel Patrimoine (優秀遺産作品賞)が授けられます。
3. Sélection Jeunesse (子ども向け作品セレクション)
子ども向け作品のセレクションです。今回は全20作品がノミネートされています。最も優れた作品にL’Essentiel Jeunesse(優秀子ども向け作品賞)が授けられます。
これらのセレクションとは別に、毎年、一人の作家あるいは一組のコンビに対して Grand prix de la ville d’Angoulême (アングレーム市グランプリ)が授与されます。選ばれた作家は次の年の選考の審査委員長を務め、ポスターのデザインをすることになります。ちなみに前回35回大会のグランプリ、つまり今年の審査委員長は Monsieur Jean (『ムッシュー・ジャン』)などの作品で知られる Dupuy & Berberian (デュピュイ&ベルベリアン)の二人でした。
2008年度のアングレームの受賞結果については以下のような日本語の記事もあります。
- アングレーム日本マンガ受賞なし 最優秀賞はオーストラリア作品 (アニメ! アニメ!)
さて、それではどんな作品が選考されているのでしょうか? オフィシャル・セレクションについては、表紙画像+中の数ページまで見られるサイトがあります。
「BD遺産セレクション」と「子ども向け作品セレクション」は、残念ながら中まで見ることはできません。なお、この二つのページの右端に「Télécharger le livret de la Compétition officielle (公式コンペティションの冊子をダウンロードする)」というリンクがあって、簡単な解説つきPDFをダウンロードできます。
- SÉLECTION PATRIMOINE 2009 (BD遺産セレクション)
- SÉLECTION JEUNESSE 2009 (子ども向け作品セレクション)
以下に各セレクションのノミネート作品一覧を日本語訳つきで用意してみました ((ノミネート作品一覧はもともとこの記事に掲載していましたが、別の記事として分離しました。)) 。
→ 資料:アングレーム国際バンドデシネ・フェスティバル 2009 ノミネート作品一覧
日本からは Sélection Officielle に平田弘史『無名の人々 異色列伝』、亜樹直+オキモト・シュウ『神の雫』、豊田徹也『アンダーカレント』、真鍋昌平『闇金ウシジマくん』、伊藤潤二『顔泥棒』が、Sélection Patrimoine に横山光輝『水滸伝』、辰巳ヨシヒロ『地獄』、水木しげる『総員玉砕せよ!』が、Sélection Jeunesse に手塚治虫『夜明け城』、藤子・F・不二雄『ドラえもん』、矢沢あい『NANA』がノミネートされています。日本の感覚だと、時代もジャンルもバラバラで同じ賞の候補にはなりえないところですが、外国ならではの醍醐味ですね。賞に食い込むかどうかも注目です。