『季刊エス』ド・クレシーへのインタビュー
原正人 (2008/10/21)
発売されてからもうだいぶ経ってしまいましたが、『季刊エス』2008年10月号(通巻24号、飛鳥新社刊)にニコラ・ド・クレシーのインタビューが掲載されています。
『S』 VOL.24 2008 Autumn : 2008秋 24号 特集「さすらい-旅人の世紀-」 (飛鳥新社)
ニコラ・ド・クレシーは今年の初めに数ヶ月間日本に滞在し、3月6日(木)には東京日仏学院でトーク・イベントも行なわれました。主な滞在先は京都のヴィラ九条山で、展覧会なども行なわれたようですね。
彼が滞在中に残した美しいデッサンと写真をヴィラ九条山のサイトで見ることができます。「Dessin」がデッサンへの、「Éloge de l’ombre (陰影礼賛)」が写真へのリンクとなっています。
さて、『季刊エス』のインタビューで、ド・クレシーは、今回の日本滞在や、前回の滞在時に描いた『JAPON』(飛鳥新社)所収の「新しき神々」、そして、それを元にしてできた新作『Journal d’un fantôme (あるおばけの日記)』、今後の予定など、いくつかの話題に言及しているのですが、とりわけ『EUROMANGA (ユーロマンガ)』に訳載された「天空のビバンドム」について語っています。
「日本の読者はどう思うでしょう。びっくりというか、がっかりしないでしょうか(笑)」と言ったりしていてかわいいのですが、注目すべきはグラフィックとナレーションの関係について語っている点です。ド・クレシーによると、「天空のビバンドム」の一番重要なテーマは「権力」らしい。からっぽのキャラクターである主人公をめぐって様々な権力が交錯し、ストーリーの主導権をかけてナレーションを奪い合う。そして、そのナレーションの争奪戦をグラフィックの違いを用いて表現する……。言われてみれば、「天空のビバンドム」には、何なら統一感がないと言っていいほどに様々な描き方が共存していて、なんじゃこりゃ? と思わせる部分があります。とにかく絵がうまいもんだから、それだけで圧倒されてしまうわけですが、ド・クレシーは、あくまでバンド・デシネというマンガ表現をしているのであって、ファイン・アートを描いているわけではない。なるほど、マンガ特有のこんな語りの仕組みがあったとは……。
必ずしもこんなすっきりと整理できるものではないのでしょうが、ただ、こういう狙いもあるということがインタビューを通じて伺えます。日本のマンガもいろいろな語りの工夫をするわけですが、こんなことはそうたやすくできるもんじゃありません!
バンド・デシネの魅力をうまく説明するのはなかなか難しいのですが、今回のド・クレシーのインタビューは著者自身の口からその魅力をわかりやすく説明したものとして、非常に価値のあるものだと思います。ぜひインタビューを読んで、ド・クレシー自身の言葉を聞いてください。