フランソワ・エロール 『友だち』

原正人 (2009/03/07)

François Ayroles, Les Amis, L’Association
フランソワ・エロール 『友だち』 ラソシアシオン

2009年度の第36回アングレーム国際バンドデシネ・フェスティヴァルのオフィシャル・セレクションにノミネートされた作品です。

タイトルどおり(フランス語の原題は「友だち」の複数形)、さまざまな友人関係のあり方を描いたフランス友情百態! 百態は大げさだが、少なからぬ友人同士がグループに登場し、その微妙な人間関係を開陳していく。真の友人同士になるべく日々研鑽を積む二人組、チビで傲慢なフランキーを中心としたグループ、同僚を友人と認めるために試験を課すサラリーマン、自分の居場所を見つけようといろいろなグループを渡り歩く青年…… 彼らのつきあいを通じて、人間にとって「友情」とは何かが見える! ……のか?



物語は二人の男のこんな対話から始まります。

1コマ目
A: “copains(コパン)”や“amis(アミ)”、“connaissances(コネサンス)”…… 友だちを指す言葉はいろいろあるけど、オレたちの関係の本質をずばり言い当ててるのって何だろうな?
2コマ目
B: “copains(コパン)”って言葉にはオレたちがまだたどり着いていない親密なニュアンスが含まれている気がするな。
3コマ目
B: おそらくオレらがまだあまり長いつきあいじゃないからだろう。それに、そんなに頻繁に会ってもいないしな。
4コマ目
B: それでも、“amis(アミ)”と呼んでもいいだけの了解はあるはずだ。
5コマ目
B: きっと、オレたち、“copains(コパン)”になる過渡期なのさ。

そう、友情にはさまざまな段階がある。かくして曖昧模糊たる「友情」という概念をめぐって様々な事例が紹介されていきます。

おかしいのは友人同士がしばしば同じ格好をしているところ。3、4のグループが登場するのですが、どのグループも皆同じ服を着、同じような髪型をしています。例えば、フランキーのグループはみんな長髪で、フードの付いたコートにパンツといういでたち。このフランキーは変人的な登場人物たちが多くいる中では常識人の部類に入りますが、いとも優雅に寸鉄釘を刺す言葉で他人を評し、時にはグループの友人までやりこめる。傍若無人な態度が実に魅力的な登場人物です。

必ずしも全員が全員そうというわけではありませんが、この作品には奇人変人たちがたくさん登場します。その人となりたるや、実に魅力的で、彼らがこの作品を傑作たらしめていると言っても過言ではない。不思議なことに、どこかぎくしゃくしていて、まっとうな友情関係を決して築くことができない彼らの様子には、ある種の既視感を感じさせるところがあります。トリュフォーの映画に出てくるジャン=ピール・レオーの行動に似ているのか…… エリック・ロメールの映画にもたまにそういう変な人たちが出てきたような…… それよりはむしろ古谷実の『稲中』や『僕といっしょ』か……? やたら理屈っぽいところなんかちょっと『魁!! クロマティ高校』を思わせるかも…… なんにしても彼らの困難を伴うコミュニケーションのありようにはある種の普遍性があるのでしょう。

作者の François Ayroles (フランソワ・エロール)は、1969年パリ生まれの作家のようです。実験的な作品を作るBD作家集団 OuBaPo (ウバボ→ Ouvroir de Bande-dessinée Potentielle [潜在的BD工房]の略)の一員でもあるとのこと。今回と同じラソシアシオン社からいくつか単行本を出しています。2001年の Incertain Silence (『ある不確かなる沈黙』)が割と知られているようで、こちらはバスター・キートンをモデルにしたと思しい無口な画家が主人公のロード・ムーヴィー風の作品。こちらはこちらでなかなか面白い作品です。

タグ: , , , , , ,